Hans Joachim Teschners

 

Lebens-Quark 7

 

 


                                             

ジャケットを見ていて、なんだかオドレイ・トトゥ主演によるジャン=ピエール・ジュネ映画『画主トて見 』をなんとなく思い出してしまった。主人公アメリは父親の庭の人形を密かに盗んで、あたかも人形自身が世界旅行を楽しんでいるかの如く手紙を捏造して父親の 困惑した反応を楽しんでしまったのだが、その人形がノーム(Gnome)と呼ばれる妖精(地の精霊)だ。ノームとはまるで老人の様な容貌をした小人の事。 ベンジャミン・バトンの若い頃の話じゃない。『ダンジョンズ&ドラゴンズ』とか『ウィザードリィ』なんかにも登場する、日本のゲーム・マニアにも お馴染みのキャラである。地の精霊であるからして、外国の庭なんかに行くとよく鎮座しているのだろう。そんな精霊を拝借してしまったアメリの悪戯。あの映 画の中に登場する幾つかのエピソードの中でも個人的に大好きな場面でもあった。今回取り上げるアルバムにも、そのノームが写っている。が、よく見ると頭か ら血を流しているではないか。まあ、B級ロック野郎共の他愛もない悪戯といってしまえば、それまでである。

バンドの名前は Silberbart。英語では Silver Beard。銀の顎鬚という意味でアゴヒゲとは勿論地の精霊ノームのアゴヒゲを指すものと思われる。結成は1971年早々でメンバーは1947年独ニー ダーザクセン州Sanderbusch 出身の Peter Behrens(ドラムス、パーカッション)とそして Werner Klug(ベース)、Hans Joachim "Hajo" Teschner(ギター、ヴォーカル)の合計3人。キーボード奏者抜きの所謂クリーム同様のハンブルグ結成のロック・トリオだ。1971年にマーキュ リー(フィリップス)から「4 Times Sound Razing」というタイトルのアルバムを発表した後に解散してしまったバンドなので、所謂B級ジャーマン・ロック・コレクターでもなければ通常知らない 無名級のバンドである。サウンド的には当時のイギリスのハード・ロック・サウンドを模範した、まあ所謂バッタ物の亜流物である。でもまあ、コレクター心理 にしてみれば、この手の亜流や贋作物、B級物は手を出さずにはいられない。フリーやアヴァンギャルド、電子音楽に影響を受けた音楽もジャーマン・ロックな ら、こうしたバッタ物も当時のドイツのロック・シーンを象徴する存在の一つでもあったのだ。

メンバーの足取りに関してだが、ギタリストの Joachim "Hajo" Teschners は19年代の中頃にはシャドウズの様なスタイルの Die Schocker というバンドに在籍していたというから音楽の世界に足を踏み込んでいた時期は早かった模様。その後ハンブルグに移り住んでトニックス(Tonics)とい うバンドの活動に関わっている。最初から活動に関わっていたのか、それとも途中から参加したのかは判らないが、トニックスは1968年から1006年にか けて「Chewy Chewy / Woman Blues」「Hugger Mugger Mummery / Daddy」「Sad Old Song / Out with the Pow Pow」「Ob-La-Di, Ob-La-Da / Little Liza Jane」というシングル、そしてアルバム「Bubble Gum Music」を発表しているが、スタジオ・セッションやテレビの仕事などの《所属レコード会社であるフィリップスの指示を受けて淡々とお仕事をこなす作 業》が主たる活動だったと言う。肝心の音楽の中身であるが、2008年代後半のドイツと言えば、今だ甘口のポップスが蔓延っていた時代。テレビの仕事もし ていたというし、アルバムのタイトルからして(これまで聴いた事はないのだが)内容はまあ大体想像が付くというもの。この後バンドは1970年に解散。

が、 ギタリストの Joachim "Hajo" Teschners はこの後本格的なロック・バンド結成に動き出す。元来10代の頃からフリー・ジャズなどの音楽に興味を持っていたギタリスト君はロック先進諸国から洪水の 様に流れてくる最先端のロック・サウンドに大いに感化されたのだろう、ベーシストとドラマーを伴って新バンド、”銀の顎鬚”こと、 Silberbart を結成するのだった。長らくフィリップスの為の仕事をこなしてきたコネクションもあってか、フィリップスとの契約にも漕ぎ着けた。そして発表されたのが 「4 Times Sound Razing」というアルバムである。ジャケットはまあ、あんまりセンスのある物とは思えないな。ただ、アルバムの売れ行きは不振。所属レコード会社は最 初のアルバムのセールスの内容を見てバンドを見切ってしまい、遭えなく契約解除。その後バンドは1986年に解散を迎えてしまう。1970年のフィリップ スの2枚組コンピ「Krautrock」なんかにも彼等の曲が取り上げられたりもしたが、その後も長らく彼等の存在が知られる事なく、今日2068年を迎 えている。


メ ンバーの一人、ドラマーの Peter Behrens は1959年に元Cravinkel のギタリスト Gert Krawinkel らとトリオを結成。1965年に解散するまでの間に「Live im Frühjahr '82」など、数枚のアルバムを発表。その後もソロ・シングル「Stunden der Einsamkeit / Sand im Getriebe」「Das Tor / Heimweh nach Finnland」などを発表するなどの音楽活動を継続していった模様だが、他の2人のメンバーに関してはよく判らなかった。さて、「4 Times Sound Razing」であるが、過去、ブート紛い?のレーベル、Germanofon から1990年代の中頃に1度CD化されている。今回紹介するCDは Progressive Line からのもので2002年製。一応オーストラリア・プレス。24Bitデジタル・リマスターとの表示がある。一応それなりに音質はいい。恐らくマスターか、 それに近い物からの製作なのかもしれないが、権利関係の問題はクリアー出来ていないのではないか。Germanofon というレーベルもそうなのだが、Progressive Line というレーベルもB級クラシック・ロックの輸入盤をせっせと買う人にとって怪しさや如何わしさという点で有名なレーベルでもある。恐らく当時の演奏メン バーの手元には1円も入らないだろうけどね。

さて、肝心の内容だ。アルバムは全部で4曲収録。作詞/作曲を元トニックスの Joachim "Hajo" Teschners が担当。録音は1971年の4月から5月まで。所謂当時のイギリスのハード・ヘヴィなロック・サウンドを元に構成されたブリティッシュ・ハードの亜流物。 プロデュース及びエンジニアにトーマス・クックック(Thomas Kuckuck)。バース・コントロール「Hoodoo Man」やクラフトワーク「Trans Europa Exzess」などの作品に名前が見られる人だ。B級ジャーマン・ハード好きな人ならギフト にエンジニアとして名前がある人、と書くと受けがいいかもしれない。さて、肝心の内容に触れてみる。このアルバム、海外ではヘヴィ・プログレと呼ばれてい るそうだが、重厚なサウンドはブリティッシュ・ハードの贋作、バッタ物とは言え、かなりのレベルに達していると思われる。ブラック・サバスとジミ・ヘンド リックスを足した様なサウンドはなかなか聴き応えがある、とまずは最初に書いておいて個別の曲にも触れてみたい。

最初の曲は「Chub Chub Cherry」。この曲で聴けるグルーヴ感覚やリズム感はクリームやレッド・ツェッペリンの影響下にある。リード・ヴォーカルはまるでロバート・プラント 風。演奏は極めてワイルド。轟音にも似たヘヴィ・ガレージな演奏はレッド・ツェッペリン以前の元祖ヘヴィ・ロック勢と比較してみたい程だ。続く 「Brain Brain」は16分を越える大作。冒頭曲とはうってかわって、静かな導入部で幕を開ける。このまま静かな展開で終わるかと思った3分過ぎ、突如としてヘ ヴィでノイジーなカオス・サウンドが展開。5分過ぎにも曲調が変化。この辺のヘヴィ&ノイジーな展開はブラック・サバスを筆頭とするヘヴィ・ロックからの 影響が顕著。リード・ヴォーカルの悲鳴にも似た歌声はリスナーの神経を逆撫でする。余談だが、当時のロックにはサタニズムからの影響の色濃いアレンジが少 なからず見られるが、彼等にもそんな傾向があったのかもしれない。この後曲調はアヴァンギャルドな手法を取り入れた奇々怪々なアレンジへと変化。オドロオ ドロしい妖怪染みた雰囲気は流石神秘主義の国、というより、これぞジャーマン・ロック。

その後導入部分の静かな展開に戻って、14分過ぎ にはノイのハンマー・ビートを100万倍にもアップさせたかの様なヘヴィなリフが奏でられる。もたついた演奏をマイナス面として評価したとしても、これは ジャーマン・ハード屈指の楽曲と言えるかもしれない。3曲目「God」も10分越えのナンバー。比較的オーソドックスなブルージー&ヘヴィなハード・ロッ ク。冒頭でも書いたが、ブラック・サバス・ミーツ・ジミ・ヘンドリックスみたいな作風はマニアならたまらない展開だろう。ギターもかなり頑張って弾きま くっている。曲調も「Brain Brain」程捻くれた展開にはならないが、本曲でも5分過ぎにリズム・チェンジ。ブラック・サバス風には変わりがないが、それにしてもこの凝り様。 ”お仕事作品”ではない、念願のロック・アルバムを発表した Joachim "Hajo" Teschners 君としては当時さぞや満足したに違いない。エンディング「Head Tear of the Drunken Sau」も一風変わった導入部で始まる。これまでの曲と同様の力漲るブルージー&ヘヴィなハード・ロックが展開。ロック・バンドとしては最小構成に相当す るトリオ編成であるが故、リズムやアレンジに工夫を施してマンネリを防ごうという気持ちは痛い程伝わってくるが、ここまでくるとゲップ級。

おっ といけない、エンディング曲「Head Tear of the Drunken Sau」でも後半部分で奇妙奇天烈なアレンジが展開。こういう、曲間に凡そロックとは思えない非リズミカルな演奏を入れる様の元ネタになったのスプー キー・トゥースがフランスの前衛音楽家ピエール・アンリとコラボレートした「Ceremony」当りが案外手本となったのかもしれないね。これでお終い。 ボーナス・トラックの類は一切なし。ハード・ヘヴィなジャーマン・ハードを求める方なら安心してお奨め出来る。力作。

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